
柔らかな光に包まれた少女のポートレート。
藤井千秋が得意とした「透明水彩のにじみ」と「細いペン線」の組み合わせが美しく、背景に広がる淡い若葉のモチーフが、作品全体に初夏のような爽やかさを与えている。
少女の瞳は大きく澄んでおり、まっすぐこちらを見る視線には、無垢さと知性のどちらも感じられる。口元にはかすかな微笑みが浮かび、控えめでありながら、温かく人を受け入れる気配が漂う。
金色がかった髪の毛は風に揺れ、一本一本の線に作者の丁寧な観察眼が宿る。静止画でありながら、そよぐ風の音が伝わってくるような動きを感じさせるのも、藤井千秋作品の特徴である。
背景のグリーンのグラデーションは、単なる装飾ではなく、少女の「内面の光」を象徴しているかのようだ。自然との調和、若さの輝き、そして時間が止まったような静謐さ。
そのどれもが、観る者の心をそっと満たす。
“昭和の少女像”の系譜を受け継ぎながら、今見ても新鮮でモダン。藤井千秋の感性と技術が凝縮された、非常に完成度の高い一枚と言える。