
秋色の風景の中に佇む少女を描いた一枚。
藤井千秋が得意とした“優美な少女像”と“詩情ある背景”が、見事に融合している作品である。
淡いグリーンの帽子とドレスは、秋を彩る落ち葉の色彩と鮮やかな対比をつくり、少女を際立たせている。帽子に飾られた色とりどりの葉は、季節の移ろいと少女の感性を象徴するかのようだ。指先まで繊細に描かれた白い手袋が、彼女の育ちの良さと、静かな気品を漂わせる。
背景にはヨーロッパの片田舎を思わせる尖塔の教会と家々が描かれ、絵全体に物語的な深みを与えている。鮮やかな黄色と紅色の木々は誇張されたデフォルメで描かれながらも、藤井千秋特有の“幻想的で心地よい異国感”をつくり出している。
少女の瞳は大きく澄み、その奥にある静かな決意や思慕を感じさせる。微笑んでいるわけではないが、穏やかでやさしい表情は、観る者に深い安心感を与える。
全体として、昭和少女画の黄金期を象徴するような華やかさと、藤井千秋独自のエレガンスが両立する作品。時代を超えて愛される普遍的な美と、物語を感じさせるロマンティックな世界観が凝縮されている。